TOP ナレッジ 金融業界での不正取引を防げ!AIや生成AIを活用した取り組み 

knowledgeナレッジ

金融業界での不正取引を防げ!AIや生成AIを活用した取り組み 

December 21, 2024

  • AI
  • Share

お金を取り扱う金融業界は、残念ながら不正取引と切っても切れない関係にあります。現に「不正取引」というキーワードでニュースを検索してみると、金融機関や有価証券などの取引所を媒介として起こっている不正取引事件がいくつもヒットします。 

不正取引は自社の信用や経営、ビジネスにも関わる重大な問題のため、金融機関では昔から不正取引への対策を講じてきましたが、昨今はデジタル化やテクノロジーの進化に伴い、AIや生成AIを活用する動きが活発化しています。そこで今回は不正取引防止を目的に生成AIなどを活用する取り組みについて紹介します。 

金融業界で横行する「不正取引」 

冒頭で触れた通り、金融業界においては様々な不正取引が横行しているのが実情です。主な不正取引には、例えば以下が挙げられます。 

【主な不正取引】 

  • マネーロンダリング:犯罪によって得た資金を、合法的に得た資金と見せかけること 
  • インサイダー取引:投資判断に大きな影響を与える未公開情報を利用して、株式等の売買を行うこと 
  • 相場操縦取引:株価等を人為的に変動させて利益を得ようとする行為 
  • 不正送金:フィッシングやスパイウェア等の手口により、自身の預金が犯人の預金口座へ不正に送金されてしまうこと 
  • 特殊詐欺:電話やメールなどを用いて、お金等をだまし取る犯罪行為。オレオレ詐欺や還付金詐欺などが該当 

上記の中でもニュースでも度々取り上げられ、世間を騒がせている「不正送金」「特殊詐欺」「インサイダー取引」について、もう少し詳しく紹介します。 

自身の預金口座のお金が犯人の預金口座へ不正に送金されてしまう「不正出金」。昔からある不正取引のひとつですが、警察庁および金融庁によると、2023年はフィッシングと推察される手口による預金の不正送金被害が急増しています。 

フィッシングによる不正送金被害 

引用:フィッシングによるものとみられるインターネットバンキングによる預金の不正送金被害が急増しています。|金融庁 

上記の通り、2023年(11月末時点)における同被害件数は5,147件(前年比約4.5倍)、被害額は約80.1億円(前年比約5.2倍)に上り、いずれも過去最高を更新しています。 

昨今はフィッシング手口の巧妙化が進んでおり、フィッシングによる不正送金被害は引き続き高水準で推移することが見込まれます。 

仮想通貨による特殊詐欺事件 

電話やメールなどを用いて、お金をだまし取る「特殊詐欺」。近年は、仮想通貨と関連付けて、お金がだまし取られる事件が増加しています。 

【仮想通貨を悪用した特殊詐欺事件例】
SNSで知り合い仲良くなった相手から「絶対に儲かるから」と仮想通貨を勧められお金を振り込んだが、出金するためには手数料が必要だと言われた。しかし、手数料をいくら支払っても引き出せず、相手と連絡が取れなくなった。 

上記の事件はあくまで一例です。仮想通貨の価格が高騰しているという話題性をフックに、様々な手口によって仮想通貨を悪用した特殊詐欺が頻発しています。 

金融業界社員によるインサイダー取引疑惑 

未公開の企業情報を利用して、株式等の売買を行い利益を狙う「インサイダー取引」もたびたびニュースで取り上げられています。例えば、2024年11月には、三井住友信託銀行の管理職だった社員がインサイダー取引をした疑惑が報じられました。 

さらに同じ時期には、市場の番人たる東京証券取引所の社員および金融庁に出向中の裁判官によるインサイダー取引の疑いも報道されました。 

証券取引等監視委員会によると、2023年度に不正取引の疑いで実施した審査件数は1,183件であり、そのうちインサイダー取引は1,147件を占めます。この数字からも、インサイダー取引が横行している現実が推察されるでしょう。 

AIによる不正検知の取り組みが増加中 

このような不正取引に関する課題を解決するため、メガバンクを中心に多くの金融機関でテクノロジーを利用した不正取引対策が実施されています。 

【不正取引対策例

  • ワンタイムパスワード:一定時間が経過すると変更されてすぐに無効となるパスワード(ワンタイムパスワード)を作成、利用し、不正出金リスクを軽減 
  • 通信内容の暗号化:SSL(TLS)暗号化技術による通信内容の暗号化で、情報の漏洩・盗聴等を防止、削減する 
  • 磁気キャッシュカードのICカード化:従来の磁気ストライプカードよりも偽造が難しいICキャッシュカードを発行する 

上記に加え、昨今は金融機関のなかにはAIを不正検知に活用する動きが見られます。ここでは不正検知におけるAI活用事例を2つ紹介します。こうした取り組みは後々、不正取引に対応する部署の業務効率化や生産性の向上などにつながる可能性もあります。 

三菱UFJニコス:不正使用検知システム×AI機能×現場の知見で不正を検知 

三菱UFJニコスでは、2023年2月よりクレジットカードの不正使用検知システムにAI機能を導入し、同年4月から本稼働させています。 

これまで同社ではモニタリングチームのスタッフが24時間365日、交替しながらカード取引をチェックしていました。一方、昨今の不正取引手法の多様化・巧妙化に対し、従来の対応の限界を感じていた同社は、AI機能の導入による支援を決断。AIに不正手口のパターンを自動学習してもらうことで、新しい不正手口に対して従来よりスピーディーに対応することが可能になりました。 

同社の取り組みは「AIを導入して終わり」ではありません。現在進行形で培っている現場のノウハウや知見を活かして、AIが算出したスコアに対して取引を停止する水準を不正抑制チームがコントロールすることで、より大きな成果を上げています。 

千葉銀行:実証実験を経て、リスク判定にAIを活用 

千葉銀行では2024年より、不正利用口座の検知精度の向上を目的に、モニタリングシステムにAI技術を活用した検知モデルを導入しています。 

同社は従来、ルールベース(※)により検出された取引を人の目で検知していましたが、実証実験の結果を踏まえ、AI技術の導入を決定。AI自身に犯罪者の行動パターンを学習してもらい、リスク判定にAIを活用しています。取り組みはまだ始まったばかりのため、今後の展開も注目されています。 

※ルールベース:不正利用の疑念がある取引の特徴を踏まえ、顧客属性や取引金額等の条件をルール化してモニタリングを行うこと。 

不正検知に関する生成AI活用の可能性は? 

前章では不正検知におけるAI活用の事例を紹介しましたが、今後はこの分野で「生成AI」が活用されることも期待されています。 

その皮切りとも言えるのが、2024年1月にあるIT企業が、生成AIを活用した「内部不正検知」に関する新機能を、同社が提供するサービスのオプションとしてリリースしています。同社によると、生成AIを活用した新機能は、従来のAIよりもさらに“人の目”に近く、人間のような検知作業が可能になると言います。 

例えば、社員が業務中に動画サイトを閲覧していた場合、従来のAIでは「業務時間中に動画を閲覧していた」と検知をします。一方、生成AIを用いた新機能ではこれを改善し、動画の内容ごとにAIが業務に関係のある動画か否かを判断し、業務とは関係のない可能性がある場合に検知を行うそうです。 

同社のケースは内部の不正検知を行う生成AI事例ですが、今後同社のような技術・仕組みが金融業界での不正取引の検知に展開される可能性は十分に考えられるでしょう。 

生成AIを活用した「四季報AI」で知見を蓄え、不正に気づく 

このように不正検知における生成AIの活用の動きは非常に活発化しています。一方、三菱UFJニコス:不正使用検知システム×AI機能×現場の知見で不正を検知で見てきた通り、AI技術と現場の知見・ノウハウを組み合わせることで、さらに大きな効果が上げられる可能性があります。 

そんな現場の知見・ノウハウの蓄積に役立つのが「四季報AI」です。四季報AIは“投資家のバイブル”とも呼ばれる東洋経済新報社の「会社四季報オンライン」の解説文やデータを主な出典として、銘柄分析をサポートします。 

四季報AIで企業や株価に関する知見、現在のトレンドの情報などを社内で蓄積できれば、現場の担当者が直感的に不自然な取引を察知できたり、あるいは不正取引の背景知識を持つ人材を増やせる可能性があります。株式取引に関する基礎知識を学ぶツールとして、四季報AIの活用を検討してみてはいかがでしょうか。 

まとめ 

金融機関ではすでにAIを用いた不正検知の取り組みが進んでいます。具体的な事例でわかる通り、AI技術と現場の人間の知識・ノウハウを組み合わせることも重要です。今後、この分野において生成AIがどのように活用されていくのか、注目してみてはいかがでしょうか。 

ライター名:加茂 歩

証券会社・求人広告会社を経て、2019年よりフリーライターになる。投資・資産運用に関する金融記事のほか、求人広告会社時代に人事採用担当者へ数多くの取材をしてきた経験から、インタビュー記事も執筆している(編集:株式会社となりの編プロ)

四季報データをAI解析、投資判断を効率化する革新的ツール「四季報AI」

「四季報AI」は、東洋経済新報社の「会社四季報オンライン」をはじめとする記事・データを出典として、証券会社や株主はもちろん、投資家や市場調査担当者などを対象に、株式市場での企業分析をサポートする対話形式のツールです。
東洋経済新報社と提携し、「四季報AI」へのAPI接続提供を開始。四季報AIの膨大な企業情報と市場情報のAIによる分析結果を利用可能になりました。

「四季報AI」の特徴

  • 「四季報AI」は、LLMを活用した高度なデータ解析により、株式投資、企業研究に関するユーザーの質問に対して多面的な回答を導き出します。
  • 「四季報AI」は、「会社四季報オンライン」をはじめとする東洋経済のメディアに掲載されている情報を主な参照元にしています。参照元を明示することで、情報の信頼性が高まり、また、詳細な情報の検索がしやすくなります。
  • 「四季報AI」では今後も、チューニングによる応答の改善やより良いモデルの検討を含め、ご利用状況に対応しながら精度の向上などを行ってまいります。
  • Share
一覧へ