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生成AIがもたらす競争環境の変化 

March 08, 2024

  • AI
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ChatGPTをはじめとした生成AI(Generative AI)の進化はビジネス環境を大きく変える。生成AI 活用は、競争力の源泉だ。「時流に乗らない」ことのリスクは大きい。生成AIは活用イメージが湧かない、必要ないという姿勢では、市場から取り残される。
いっぽうで、生成AIの可能性を最大限に活かすためには、その適用領域を正確に理解し、戦略的に取り入れることが重要。本稿では、事業開発の専門家である筆者が生成AIの基本から、ビジネスへの適用方法までを解説する。 

生成AI(Generative AI)とは? 

生成AI(Generative AI)とは、ユーザーが入力したプロンプト(指示や質問など)に基づいて、テキスト、画像、動画などを生成するAIの総称であり、各社からさまざまなサービスが展開されている。2024年2月にOpenAI社が発表した動画生成AI「Sora」のデモ動画は、さながら「現実」のようなクオリティに大きな注目が集まっている。 

出典:https://openAI.com/research/video-generation-models-as-world-simulators 
テキスト生成 ●ブログ記事:キーワードを入力するだけで、SEO対策も考慮した記事を自動生成
●広告文:ターゲットや商品情報に基づいて、効果的な広告文を自動生成
●小説:キャラクター設定やストーリー展開を入力すると、続きを自動生成 
●メール:返信すべき内容を入力すると、相手に合わせて丁寧なメールを自動生成 
画像生成 ●ロゴデザイン:コンセプトを入力するだけで、複数のロゴデザインを提案
●イラスト:イメージを伝えるだけで、プロのイラストレーターが描いたようなイラストを生成 
●写真編集:顔写真から背景を自動で切り抜き、プロ並みの編集が容易に 
●商品画像:商品情報を入力するだけで、リアルな3D画像を生成 
動画生成 ●アニメーション:キャラクター設定とストーリーを入力すると、アニメーション動画を自動生成 
●広告動画:商品情報とターゲット層を入力すると、訴求力の高い動画を自動生成 
●説明動画:製品の使い方や仕組みを、わかりやすくアニメーションで説明 
●映像作品:脚本を入力すると、映画のような映像作品を自動生成 

「作るAI」から「使うAI」へ 

これらは、ほんの一例であるが生成AIの登場により「作るAI」から「使うAI」へとその役割を変えつつある。これまでのAI技術は、特定の問題解決のためにデータを収集・分析し、AIのモデルを構築する「作るAI」の側面が強かった。これに対して、生成AIは既に構築された大規模なモデルを、ユーザーがすぐに利用する「使うAI」としての性質を持ち、高い汎用性が特徴である。 

特徴 作るAI 使うAI 
目的 特定の問題解決やタスクを達成するためのモデルを構築する 既存のAIモデルを活用して様々なタスクを実行する 
主な応用分野 音声認識、画像認識、予測モデリング テキスト生成、コンテンツ作成、
データ分析 
利用方法 特定業務やプロジェクトにあわせたカスタム開発 幅広いアプリケーションに
適用可能 
技術的要件 高度な機械学習知識、データサイエンススキル AIモデルの基本的な理解、適切なプロンプトの設計 
開発プロセス データ収集、モデル設計、学習、チューニング プロンプトの入力、パラメータの調整 

生成AIは、デジタルトランスフォーメーションを加速させる 

企業がデジタル経済に適応し、競争力を高めるために必要なデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の観点から見ても、生成AIは、生産性の向上、顧客満足度の向上、新たな価値提供の3つの側面でDXを加速させる。 

生産性の向上 市場分析、コンテンツ作成、データ分析などを自動化・効率化し、人的資源をより戦略的な業務に集中させることができる 
顧客満足度の向上 パーソナライズされたコンテンツの提供や、顧客のニーズに迅速に対応するカスタマーサポートなどが可能となる 
新たな価値提供 (イノベーション) AIが提供する洞察や予測を活用することで、新しい市場の機会を発見し、革新的な製品やサービスを開発することが可能になる 

CES2024にて、フランスの化粧品メーカー「ロレアルグループ(L’Oréal Group)」は、 LLM(大規模言語モデル)を利用し、ユーザーとの会話・スマホで撮影した肌の写真などからユーザーの肌の状態にあった化粧品を提案するAI美容アドバイザー機能などを紹介した。 

従来のチャットボットに比べ、生成AIを活用したチャットボットは、対話能力が各段に高いため、マーケティングへの活用は今後さらに増えていく可能性がある。
例えば、サイトから離脱していたユーザーをLINEなどのコミュニケーションツールへ誘導し、AIが対話でユーザーの不安の解消や、ニーズ喚起を行い、コンバージョンまで誘導するといった形だ。美容に限らず、さまざまなシーンで活用が考えられる。 

生成AIの導入率が約2割にとどまる日本企業 

いっぽうで、生成AIの活用に関して、日本企業における採用率が米国などの諸外国に比べて大きく低いことが指摘されている。野村総合研究所グループのNRIセキュアテクノロジーズが行った調査によると、日本の企業の多くが生成AIの必要性を感じておらず、導入率は約20%に留まっている。
また、日本企業の“生成AIは不要のため未導入”の比率の高さには危機感を覚えざるを得ない。 

この低い導入率と、高い未導入率の背景には、技術的なハードル、コストの懸念などもあると推察できるが、生成AIに関する正しい知識の不足が、その根底にあると考える。 

生成AI活用のポイントは正しい知識とプロンプト設計 

ハルシネーション 

まず抑えるべき点が生成される結果についてである。
生成AIは、技術的な特性から「事実とは異なる内容」や、「文脈と無関係な内容」を生成することがある。この現象をハルシネーション(幻覚)と呼ぶ。生成結果が正確かは、人が判断(ファクトチェック)する必要がある。
具体的には、生成AIに対してより詳細の条件を伝え回答させて比較する、他サービスを使って検索して確認するといった方法がある。 

著作権、個人情報の扱いに関する留意 

そしてもう一点押さえる点が、情報の扱いである。
生成AI へ入力する情報、出力結果の著作権、商標、個人情報、機密情報などの扱いについて留意する必要がある。これらにおいては、プロンプトで適切に回避する方法もある。
例えば、本人の同意を得ておらず個人情報を生成AI に入力できない場合において。メールの対応文章を作成するには、個人情報を含まない範囲で生成AI を利用しメール文案を作成し、その案をベースに、自身で個人情報を追記してメール文を完成させるといった方法もとることができる。 

項目 生成AIへの入力 出力結果(生成物) 
著作権 著作権侵害には該当しない。 生成物が、著作権物と類似・同一の場合、
著作権侵害になる可能性がある。 
商標・意匠 商標・意匠権の侵害には該当しない。 生成物が、著作権物と類似・同一の場合、
著作権侵害になる可能性がある。 
個人情報 個人情報を入力する場合は、本人の同意を得る必要がある。 生成物が、他社の商標・意匠と同一・類似の場合、商標・意匠権の侵害になる可能性がある。 
機密情報 自社 法令には違反しないが、機密情報の保護が脆弱になる可能性がある。 生成物に個人情報が含まれていないか確認する。 
他社 他社の機密情報の入力は避ける。 

プロンプトは、暗黙知を形式知にできるかが鍵 

  「ハルシネーション」「情報の扱い」については押さえたうえで、それでも、うまく活用できていない背景のひとつに「プロンプト」があるのではないだろうか。
ChatGPT のベースになっているLLM(大規模言語モデル)は、「人類がこれまで作ってきたさまざまな文章をとにかく学習させて対応関係を学習した知性」のようなものだ。技術的な詳細は割愛するが、本質的には「それまでの文脈を踏まえて、最も出てきそうな言葉を(確率的に)次々に生成していく仕組み」だ。確率的に文章を生成することから、聞くたびに回答が変わったり、回答の深さ(具体性や詳細さ) がまちまちになってしまったりする特性がある。
その特性を踏まえたうえで、生成AIから、回答をうまく引き出せるかどうかは、ユーザーの「プロンプト」にかかっている。 

例えば、新しいサービスのコピーを生成する場合、プロのコピーライターは、サービスの提供価値だけでなく、顧客像、顧客が置かれている状況、関係者、サービスとの初期接点など、様々な観点から情報を整理するとともに、複数の切り口からコピー案を出している。これらの暗黙知を含んだ情報をプロンプトにできるかできないかで、生成される内容に大きな差がでることは容易に想像がつくだろう。 

ここで、事業検討を例に、具体的なプロンプト例を示す。 

ケース Web3をテーマとし、自社とシナジーのある事業案を検討する 
プロンプト あなたは事業開発チームリーダーとして、経営陣へ提案を行う立場です。 以下のテンプレートを用いて、Web3というテーマのビジネスアイデアを3つ考案しましょう。  
最初に、各アイデアの概要をまとめてください。  
提案内容は、以下のURLから参照できる自社の決算資料に基づくものとします。 [リンクをここに挿入]  

各アイデアの概要には以下を含めてください
: アイデア名 
アイデアの主要内容 決算資料に基づいた取り組みの意義 市場の潜在的な成長性  各アイデアの詳細は以下の要素を含めて構成します
: アイデア概要 
サービス概要 決算資料との関連性 市場の潜在性 目標市場 顧客像 市場ニーズ 市場規模 競争状況 主な競合 自社の差別化 競争戦略 価値提供 独自性と価値 顧客への利益 技術保護 ビジネスモデル 収益源 収益化戦略 利益マージン マーケティング戦略 プロモーション 配信チャンネル 顧客獲得 実行計画 アクションプラン タイムライン KPI 

このように、「事業案を考えて」と指示するのではなく、参照して欲しい情報や、入れて欲しい項目などをしっかり指定することで、アウトプットは大きく変わってくる。 

自身が普段行っている作業の置き換えにおいても同様なことが言える。巷にあるプロンプトテンプレートを参考にしつつも、自身が持つ暗黙知をぜひ、形式知としてプロンプトにいれて、アウトプットの差を見てもらいたい。 

株式会社AI Booster/CEO 小栗 伸

株式会社NTTドコモで「AI電話」をはじめとした12のAIプロジェクトを事業化。
2023年、株式会社AI Boosterを設立し、AIタレント事業、生成AIを活用した事業創出支援を行っている。

世界で最も権威あるIFデザインアワード最高賞をはじめ、国内外で18件の賞を受賞。一般社団法人生成AI活用普及協会協議員。


製薬業界で生成AIを活用する「ラクヤクAI」
このように今後の活用が期待される生成AIですが、中でも注目を集めるのが製薬分野です。

「ラクヤクAI」は、治験関係書類や添付文書といった社内外の膨大なデータを活用し
製薬事業のあらゆるシーンを効率化する専門文書AIサービスです。
基礎研究から製造販売後調査まで、多岐に渡る製薬業務の中で取り扱われる
様々な文書の作成・チェック作業を自動化し、圧倒的な業務スピード改善を実現します。

「ラクヤクAI」ご活用シーン(例):
■ 治験関連文書やプロモーション資料の自動生成
■ 作成資料のクオリティチェックや、資料間の整合性チェック
■ 講演内容(資料・音声)の適用外表現モニタリング
■ 薬剤情報やナレッジの検索・調査
その他、個別カスタマイズが可能な生成AI環境で、
社内の知見を統合的に分析・集約したアウトプットをセキュアな環境をご提供します。

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