こんにちは、ファーマ・テック・トランスレーターの石川です。
過去の自らの業務を思い返して「あの時生成AIがあったなら」と考えるシリーズ。
今回も私のこれまでの人生を振り返りながら、作成にも振り返りも大変な思いをした「実験ノート」を題材に生成AIの活用について考えます。
※このコラムでは「生成AI」という場合、弊社親会社・株式会社メタリアル社が開発したLLMオーケストレーション・システム「LLM2」のことを指しています。
実験において欠かせない「実験ノート」
皆さんは「実験ノート」というものを書いたことがありますか。
「実験ノート」は科学や工学の実験において条件を一定にした上で実験担当者が記録する特許などの公的申請の根拠となる一次資料です。
また、データ完全性(data integrity)という用語を見聞きしたことがありますか。医薬品に関する公的申請の根拠となるデータ出力機器のメタデータ(データの日時スタンプなどのデータ)を含む出力記録を審査時に要請に応じて開示できることを指します。
「実験ノート」という「苦行」
初めての「実験ノート」
私が実験ノートを書いたのは研究室に配属された大学3年からのことです。当時はB5サイズの大学ノートにページを破らない、飛ばさない、書いた文字は見えるように間違いは削除前の文字が読めるように1本の消し線で取り消します。ページの差し替えができるルーズリーフ形式などは実験ノートには使用できません。
さらに実験の目的、方法、結果は毎日継続して油性ボールペンで記載します。研究対象分野の総説から関連しそうな引用論文を入手し、そこから得た実験条件を追試、自身の研究テーマの実験に応用するのです。最新の学術雑誌から、参考になりそうなものを読んでファイルし、実験に応用した該当参考文献タイトル、ページの記録、重要な個所の抜き書きなど所せましと乱雑に書き込む場合もありました。特に独自に組んだ実験装置の図解なども必須でした。
しかし、このような記録プロセスの欠点は、のちのち論文を書く際に細かい部分は見返しをしないと思い出せない点にあります。
生成AIで「実験ノート」を自動作成
もし、これが生成AIシステムであれば、まずデータを都度エンベッディングし、自身の手順を細かく単位作業に分けた上で、自然言語プログラミングともいえるプロンプトエンジニアリングで単位作業の精度を高める作り込みで、自身の求める論文執筆などの下書きを根拠を含めて自動的にこなしてくれるようにできたはずです。
「実験ノート」と「データ完全性」
社会人になっても「実験ノート」
企業に就職して医薬品開発に従事するようになってからもこの「実験ノート」を書く機会はありましたが、学生時代と異なる点はシリアル番号付きの専用の装丁がなされたノートが支給された、ということです。(大学ノートとは異なり、紙質の良さに驚いた記憶があります。)
私は毎日この実験ノートに計画と進捗実績を記入し、定期的に研究指導者の確認印(今なら多分署名)を受けることになりました。これは、一見大変面倒な作業に思えますが 研究施設ではこのような管理を徹底しないと研究不正を起こす温床が育ちます。
一時、世間を騒がせた研究不正事件もこのようなアナログ管理を疎かにした結果ではないかと私は想像することがあります。組織トップが故意(直接的)に、または不作為(間接的)に不正に関与すると不正の露見が遅延し、組織の存続を危うくする事件につながることさえあります。
人間のチェック+生成AI
この不正を未然に防ぐという場面においても、生成AIはきっと活躍できるはずです。
生成AIシステムであれば、不正とみなす基準をエンベッディングしておくことができるので、組織のハラスメントや不正を人によるアナログ管理よりもグループウェアのクローリングにより初動段階で防ぐといったタイムリーな管理が可能です。
このように、実際の実験ノートの管理上の負担軽減にも、企業内部の研究不正防止管理上も生成AIを活用したシステムは活躍できる可能性があると感じますが、皆さんの意見はいかがでしょうか。
まとめ
ということで、今回は学生時代から社会人まで常にそばにあった「実験ノート」を題材に生成AIの活用について考えてみました。
もちろん現在は、企業側でも当局の要求するデータ完全性に対応するために、私がいた時代のようなアナログな管理方法ではなく、サーバーなどに分析データなどをすべて入れ、タイムスタンプで管理する方法がとられていると思いますが、生成AIが人を代行する旧来の人による実験ノートの管理方法を併用するのがデータ完全性を主張する上で有効ではないかと個人的には思慮します。
製薬産業で重要な基準であるデータ完全性までは要求されないものの、主張と根拠の整合性チェックは、あらゆる学術論文や特許に基づく産業分野で必須の考え方になるのはないでしょうか。
製薬分野に限らず、AIの応用で具体的な課題とお持ちであれば、ぜひお問い合わせいただければ幸いです。
株式会社ロゼッタ/ファーマ・テック・トランスレーター/石川 博
1979年にサントリー(株)の医薬事業の一期生として入社。製剤研究、医薬品開発や上市申請まで幅広い業務に携わる。その後、第一三共グループ時代にロゼッタのAI精度に感銘を受け、「言葉の壁を取り除く」使命を見出しロゼッタへ入社。現在、AI時代の到来に際して専門知識と経験を活かし、製薬業向け「ラクヤクAI」のサービス・CS向上を推進。言葉と製薬業界の未来を切り開く挑戦を続けている。
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