AIとコミュニケーションの未来像を考えるべく、Rozetta Square編集部ではAIを主軸に、サービスを生み出す業界のリーダーの座談会を開催。
前編では「正確さ」より「納得性」を目指すAIや、社長もタレントもAIで拡張される人間×AIビジネスの現在地について語られた。後編では、テーマはさらに未来志向へ。
AIの幅広い活用によって、いままで想像もできなかったコミュニケーションが誕生しようとしている。そこには期待も不安もある……。いつだって新しいテクノロジーに翻弄されがちな私たちは、爆速進化するAIに、どう向き合えばいいのだろうか?
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プロフィール

左から:

株式会社NTTドコモ・R&D戦略部担当部長・吉田 直政 様
NTTドコモでインフラ開発、サービス開発、新規事業創出に従事。オープンイノベーションをリードする新規事業創出プログラム「39works」「トップガン」の企画・設計・実行を担当し、7年間で40以上のプロジェクト事業化挑戦に寄与。さらに技術を核にサービス企画、事業創出に携わり社内外のメンバーと20以上のプロジェクトを社会実装するなど、社内外を巻き込んだ革新的な新規事業を生み出す仕掛け人。

株式会社Visionary Engine・CEO・小栗 伸 様
NTTドコモでは新規事業プロデューサーとしてAIプロジェクトを製品化・事業化した経験から、新規事業の立ち上げや事業創出の仕組み化を得意とする。世界で最も権威あるIFデザインアワードGoldをはじめ、グッドデザイン賞・日本財団ソーシャルイノベーションアワードなど、国内外のアワード18件受賞。経済産業省主催「始動Next Innovator 2021」採択。

株式会社ロゼッタ・取締役・古谷祐一
2007年にGMOインターネットの連結子会社であるGMOスピード翻訳株式会社の代表取締役社長を経てロゼッタの連結会社Xtra株式会社の代表取締役に就任(退任)。
現在は取締役としてロゼッタの営業部門を統括。AI翻訳の限りない可能性を世の中に広めるべく精力的に活動している。
2012年より一般社団法人日本翻訳連盟理事(10年従事し退任)、2014年よりアジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)監事を務める(現任)。
レッドオーシャンで戦う「特化型AI」の世界
ーー 前編ではAIとコミュニケーションする現在の状況や、RAG技術を活用した「社長」や「アイドル」のAIを紹介いただきました。しかし、かなりニッチな使い道を狙っていくんですね。
小栗 ニーズを見つけて、GAFAのような巨大プラットフォーマーとは違う戦い方をしないとね。

吉田 ビッグデータだけでなく、専門性の高いクローズドな情報を扱うAIは多いですよ。
古谷 生成AIはレッドオーシャンですからね。ニッチな業界特化型のAIのほうが社会貢献度も高いと思います。例えば、当社では製薬業界向けのAIを提供しているんです。
吉田 なぜ製薬業界だったのですか?
古谷 製薬業界では、一般出来には何をするにもドキュメントを残し、国に提出することが義務化されています。しかも書類作成は専門知識が要求され、すごいリソースがかかるんです。
ーー 思えば「コミュニケーション」って、日常会話だけじゃなくて専門的な手続きも含みますよね。
古谷 そう。ここをAIで自動化できれば、研究開発や薬事申請といったコア業務に集中できるのではないかと。さらに創薬の分野では、研究者は量が膨大な論文や文献を検索して、疾患に関する仮説を立てていくのですが、ここもAIが得意な分野です。製薬とAIはすごく相性がいい。

吉田 結果として新しい薬が早くマーケットに届くということですね。すでに役に立つ道が見えている。
古谷 製薬以外にも、ドキュメントが必須な業界は多いです。製造・法務・特許・金融など。それぞれに専門性があり、ほとんど手作業で作成されてきました。しかも、作成後の整合性確認にかなりの手間がかかり、時間もかかってしまう。

古谷 それは現実空間のチェックも同様です。たとえば工場内に新しい製造ラインを作る際には、先に工場内の空間を3Dで生成して、その中でチェックしてしまえばいいのではないかと。
小栗 デジタルツインですね。
古谷 その通りです。当社では2Dの図面一枚から、メタバース空間を生成する技術を持っています。
ーー そんなことができるんですか?

ガウシアン説明 / Gaussian Explanation (JP)
古谷 この技術を使って、事前にメタバース空間内で生産工程を検証しておけば、実際に稼働させる際のクオリティも上がりやすい。橋や大規模な建築物にも活用できます。
吉田 最終的には、都市計画そのものがこうしたプロセスで行われるかもしれませんね。
古谷 まさに内閣府が提唱している「ソサエティ5.0」ですね。現実空間と仮想空間が融合した社会には、生成AIが必要不可欠です。
こどもに人気のアプリ1位は「メタバース」な時代
ーー ついにメタバースまで話が来てしまいました。
古谷 メタバースに関しては、私たちは本気です。2021年9月にロゼッタからメタリアルに社名を変えたくらいですから。FacebookがMetaになるより1ヵ月先だったんですよ(笑)。
小栗 AIとコミュニケーションの変化といえば、メタバースは外せませんよね。
古谷 VRの中に自分の空間を作って、アーティストがLIVEを開催したり、YouTuberのように活動することもできます。
実写と合わせたVR活用も面白いですよ。360度カメラで現地の人の視線とつながり、世界のどこでも見ることもできます。イタリアに新婚旅行の下見に行くような体験が可能になるわけです。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)が普及すれば、まったく新たなコミュニケーションが生まれるでしょう。


https://dokodemodoors.com/
吉田 最近、興味深い調査があって。アメリカでZ世代の次のアルファ世代(7~12歳)が利用しているアプリの1位が、メタバースSNSの『Roblox』だったんですよね。
編集部注:Roblox(ロブロックス) ゲーム・教育等に使えるメタバースSNSプラットフォーム。「ロバックス」と呼ばれるゲーム内通貨がある。1日当たりの平均アクティブユーザー数は8000万人、月間アクティブユーザー数は3億8000万人を超える。 |

アメリカのα世代(7~9歳/10~12歳)でYouTubeやSpotifyを凌いでRobloxがトップ。滞在時間はTikTokを超える。ちなみに16歳以上ではRobloxはTOP10圏外。
引用:Qustodioによる調査(2024年8月19日発表)
©Qustodio
古谷 これはすごい!
吉田 彼らが数年後に消費を始めることになるわけですね。しかも、すでにメタバース内で仕事をしているんですよ。つまりプラットフォームとして、持続性があるということです。この世代の将来をどう楽しくしていくのかを考えていきたい。
ーー そこにAIが絡んでくるんですよね……どうなるか全然予想できません。
吉田 まず、メタバースでは距離や空間の制約がありません。ロゼッタさんのような自動翻訳があれば、言語の壁も超えられる。お金の概念も変わるかもしれないし、みんながアバターを使うようになれば、見た目の問題すらクリアされる可能性がある。そこにAIによる学習が加わると、私は「自分自身をAIで代替する」ようになるんじゃないかと思うんです。
いま『MetaMe(メタミー)』というメタバースプラットフォームを提供しています。


「誰もがわたしらしく過ごせる世界」を目指し、仮想空間上に1万人が集まることのできる「超多人数同時接続技術」や、コミュニケーションを通じて、AIがユーザーを理解する「価値観理解技術」といった研究開発技術を備えたメタバースプラットフォーム。2024年9月13日には、MetaMeで配信する初のオリジナル番組「らいぶら」によるハイブリッド型の音楽イベントが開催された
ご参考:MetaMe https://twitter.com/MetaMe_Official
吉田 私たちは「メタコミュニケーション」と呼んでいるのですが、このプラットフォームの中では、自分のアバターを自律的に活動させることができます。『WithMe』というペットの相棒が、ログオフした状態でも自立的に活動して、コミュニケーションを楽しみます。
ーー 自分が寝てる間にアバターが動いて、友達を作ってきて起きたら紹介してくれる、みたいなことでしょうか?
吉田 そういうことです。ユーザーが求めている情報を集めてくる。AIによって個人の価値観をバーチャル化すれば自分自身が代替されて、リアルなコミュニケーションの限界を突破できるんじゃないかと考えています。自分の時間が「二重化」されるというか。

ーー なんか「すごい」しか言葉が出てこない話ですが、正直勝手にアバターに動かれたら不安じゃないでしょうか。
吉田 そこは大事です。いまのレベルのコミュニケーションでは問題は出ませんが、情報のやりとりが緻密になればなるほど、個人情報のコントロールが重要になってきます。
小栗 そうですよね。私も自分のかわりにAIエージェントが活動するようになると思います。そのときにエージェントがどこまで学習した情報を発信するのか。自分のことを話してほしくない相手だっているし、自分が言ったことを全部AIに学習されても困るかもしれない。たとえば飲み会の席で話したことなんて、聞いてる人が忘れてくれる前提でしゃべってるじゃないですか(笑)。
古谷 確かに(笑)。
「AI脅威論」を乗り越える
ーー 最後にあえて伺いますが、「AI脅威論」のような不安な気持ちはいまでも根強いと思うんです。
古谷 そうですね。
ーー このトークの前編でも紹介された「個人からAIを作る」という話でも、影響力のある人がAIを使ってどんどんコミュニケーションを拡大していったら、個人の力が強くなりすぎるんじゃないかとか、悪用されたらどうするのかなど。みなさんはどのような想いでAIのビジネスに向き合っているんでしょうか?
吉田 まず前提として、AIは怪しいものだ、胡散臭いな、と考えることは「正しい」と思います。私も疑いながら、ビジネスに利用しています。最初にChatGPTなどの生成AIが出始めた際には、「AIが勝手に核兵器を作って地球が滅亡する」とか言われていましたよね。
古谷 ええ。実際にChatGPTで「爆弾を作る方法」を出力する人がいたり、社会的に問題になりました。そのせいで生成AIを使用禁止にした国もありましたよね。私も最も大きな脅威は「倫理的でないAI」だと思います。いまは徐々にチューニングされてきて、共存共栄的な発想になってきている。でもどこかに倫理的でないAIは今も存在しているはずで、それをどのように弾くかは重要です。
吉田 けれど、どれだけ規制すれば「AIが核兵器をつくる」可能性がなくなるかというと、絶対にゼロにはなりませんよね。

吉田 人間の仕事をAIが代替すると、既存の産業がディスラプトされて、失業してしまうと考える人もいます。その考えに対しても同じ立場で、危ういと思いながらも、ではどう面白く・よりよく仕事の役立ちに応用するのか? と模索することだと思うんです。もうAIに関わって10年以上になりますが、長い間「まだまだAIは使いどころが少ないなあ」と思っていた。その状況が変わってきたのが嬉しいんですよ。
小栗 私も同じですね。大学のころからAIを専攻しているので、業界やビジネスにできる領域が広がってきたことが嬉しい。恐怖や不安はビジネスの種ですよね(笑)。お金を支払ってでも解決したい悩みは、事業を行う私たちにとってはありがたい。AIをよりよく使うことで仕事になるんですから。
古谷 私も専門が自動翻訳で、AIとはずっと付き合ってきました。だからポジティブもネガティブもわかるというか。実は、私はリアルに「AIで仕事がなくなる」という脅威を感じた経験があるんですよ。
吉田 そうなんですか。

古谷 2016年のことです。当時、私はクラウドソーシングで世界中から法律や医療など、60くらいの分野の翻訳者を集めて、リアルタイムで翻訳するサービスを運営していました。その売上が、ある月にほとんど全部の翻訳分野で一気に下がったんです。何が起きたのかわからない。調べていくと、Google翻訳の精度が強化され、質が向上したタイミングと重なっていたんです。
ーー そんなにいきなり影響が出るものなんですか?
古谷 ええ。階段を上るように徐々にではなく、ある日突然、売上の何割かが消える。津波のようでしたね。でもそのとき「これは飲まれるしかないな」と思いました。半年くらいでAIを受け入れることに決めて、AIで翻訳者をサポートする方向に切り替えた。同時に、Google翻訳が弱い専門分野だけが、売上が残っていることに気づいたんです。そこに注力しながら、現在もビジネスを続けています。

古谷 いま思うと、一気に飲まれたから波に乗れたのかな、とも思います。価値観の変化もそうじゃないかと。覚悟を決めて新しい流れに飲み込まれると、アイデアが生まれてくることもある。
だから大丈夫。今後ディスラプトされて強くなるんですよ(笑)。
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