こんにちは、ファーマ・テック・トランスレーターの石川です。
今回は、2024年9月時点の株式会社ロゼッタの製薬業向け生成AIソリューション「ラクヤクAI®」についてご紹介します。
ラクヤクAIの機能
ラクヤクAIは製薬業向けの生成AIソリューションですが、まずは機能についてご紹介します。
ラクヤクAIでは製薬業で発生する次のような作業を効率化できます。
- 文書・資料の作成
- 整合性チェック
- 講演内容モニタリング
- 薬剤情報やナレッジの検索
では、このラクヤクAIというソリューションが誕生したきっかけについてお話ししましょう。
製薬企業の苦役的労働を解消する
まず私には、前回の自己紹介の通り製薬企業での実務経験があります。ですので、製薬企業では文書QC(品質管理)という苦役的仕事があり、それには長い時間がかかり、内容がある程度理解できる優秀な人々が充当され、そして、その優秀な人々が集中力が必要で長時間続けられない仕事である、ということを知っていました。
弊社がAI自動翻訳で長年お取引のある製薬企業の方々も当然この作業に悩まされているだろうと思い、これをどうにかAIで楽にすることができないか、と提案したのが後のラクヤクAI誕生につながりました。ラクヤクAIの機能の中で「整合性チェック」がこの作業の効率化に相当します。
その後、弊社が元々お取引のある製薬企業の皆様だけでなく、医療関係者からも生成AIを活用することで製薬と医療分野の抱える類似の課題を解決することができないかというご相談を具体的に多数お受けするようになり、標準サービス化への動きが始まりました。
文書QCの難しさ
ではなぜ今回私が、文書QCを取り上げたかについて、担当されたことのない皆さん向けに少し解説したいと思います。
まず言語の問題です。QCは日本語で行われますが、世界で最も修得が困難な言語と言われる日本語で特に難しいところは、一文字違うだけで意味が全く異なることが起こり得るという点にあります。
筆者の試作した社内用LLM2*アプリにこの事情について質問した際の回答は以下の通りでした。
*LLM2についてはこちらを参照ください。
プロンプト(質問):
日本で製薬企業が新薬申請をする書類に関しては、引用文献の内容と申請書類の記載との整合性だけでなく、一字一句にわたるまでの厳密な書き間違いを修正する作業が要求されます。この理由を日本語の言語的特性を含めて教えてください。
LLM2の回答
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日本で製薬企業が新薬申請をする書類に関して、引用文献の内容と申請書類の記載との整合性だけでなく、一字一句にわたるまでの厳密な書き間違いを修正する作業が要求される理由には、以下のような日本語の言語的特性が関係しています。
- 漢字の多義性と同音異義語: 日本語には多くの漢字があり、それぞれが複数の意味を持つことがあります。また、同じ発音でも異なる意味を持つ単語(同音異義語)が多いため、文脈によって意味が大きく変わることがあります。これにより、誤字や脱字があると、意図した内容が正確に伝わらないリスクが高まります。
- 文法の複雑さ: 日本語の文法は非常に複雑で、助詞や助動詞の使い方一つで文の意味が大きく変わることがあります。特に専門的な内容を含む新薬申請書類では、文法的な誤りがあると、誤解を招く可能性が高くなります。
- 専門用語の正確性: 製薬業界では専門用語が多用されます。これらの用語は非常に特定の意味を持つため、誤字や誤用があると、科学的な正確性が損なわれるだけでなく、法的な問題を引き起こす可能性もあります。
- 法的要求: 新薬申請書類は法的な文書であり、規制当局に提出されるため、内容の正確性が厳しく求められます。誤字や脱字があると、申請が却下されるリスクがあるため、非常に厳密なチェックが必要です。
これらの理由から、日本で製薬企業が新薬申請をする際には、一字一句にわたるまでの厳密な書き間違いの修正が要求されるのです。
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なるほど、完璧な答えですね。製薬企業にお勤めの方などは、英語での新薬申請との違いがよくわかると思います。
実際の事例
私は、かつて国産初の抗不整脈薬に関するプロジェクトの処方設計、治験薬製造から実生産バリデーションまでを担った関係で、薬事担当者のQCを受けた文書を書き直す役割を担ったことがありました。
最初の製造販売承認時の記載は正確には覚えていませんが、「日局製剤総則の硬カプセル剤の項に従い製す。」のような簡単な記載であったと思います。これは、平成17年3月23日の「医薬品の製造方法等の変更に伴う品質比較に関する研究班」報告に記載されている、下記の記載の通りです
一方,製剤に関しては,製造方法欄には「日局製剤総則○○剤の項に従い・・・」と,具体的な製造方法は何も書いていないと言える内容であった。
(注)読点が「,」句点が「.」となっているのは「日本薬局方原案作成要領」の「2.1.3 句読点」の記載ルールです。
引用元:https://www.nihs.go.jp/drug/PhForum/shouninkisai050323.pdf
CTD統一がICHの合意進展により具体化し、プロセスバリデーションの必須化に伴って製造方法欄の記載は詳細が求められるようになりました。
製造承認申請書に添付される文書の製造方法欄の記載は、自ら製造する場合だけでなく、製造委託先での手順も含まれるように、使用機器は原理的な記載に留め、詳しすぎない程度に記載する必要があります。あまり曖昧過ぎると薬事担当者のお叱りが入り、書き直す必要が出てくるのです。
このときに日本独自の製造方法欄の記載ルールがとても奇妙に思えた記憶があります。
目標値/設定値とする製造パラメータ又は標準的仕込量のうち,軽微届対象事項は『 』内に,一変事項は《 》内に記載する.また,目標値/設定値以外の軽微変更届出対象事項は“ ”内に記載する.
引用元:https://www.nihs.go.jp/drug/PhForum/shouninkisai050323.pdf
このような通常とは異なる文書のチェックが必要であるというのは、製薬業でないみなさんから見てもとても骨が折れる仕事だと思われませんか?
海外との比較
日本では製造方法欄に事前に明記する方法がとられていますが、米国では、製造方法の年次報告事項にするか変更申請にするかはタイトルホルダーに任せられています。
例えば、
米国のガイダンスはこちら
https://www.fda.gov/files/drugs/published/Changes-to-an-Approved-NDA-or-ANDA.pdf
日米を分かりやすく比較した資料はこちら
https://www.pmda.go.jp/files/000215599.pdf
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回はラクヤクAI誕生のきっかけとなった文書QC(品質管理)という製薬業特有の業務についてご紹介をしてまいりました。
日本語文書と英語文書の違いについては、ご要望が多ければ、今後も別途触れることもあるかもしれませんので、ご期待ください。
今後も、現在製薬業が抱えている課題や生成AIで描ける未来について語っていきたいと思います。
それでは皆さん、また次回お会いしましょう!
株式会社ロゼッタ/ファーマ・テック・トランスレーター/石川 博
1979年にサントリーの医薬部門でキャリアをスタートし、医薬品開発や医療用麻薬製造の経験を積む。第一三共グループ時代にAIと言語技術の可能性に目覚め、「言葉の壁を取り除く」使命を見出しロゼッタへ入社。現在、AI時代の到来に際し、専門知識と経験を活かし、言葉と製薬業界の未来を切り開く挑戦を続けている。
製薬業界で生成AIを活用する「ラクヤクAI」
このように今後の活用が期待される生成AIですが、中でも注目を集めるのが製薬分野です。
「ラクヤクAI」は、治験関係書類や添付文書といった社内外の膨大なデータを活用し
製薬事業のあらゆるシーンを効率化する専門文書AIサービスです。
基礎研究から製造販売後調査まで、多岐に渡る製薬業務の中で取り扱われる
様々な文書の作成・チェック作業を自動化し、圧倒的な業務スピード改善を実現します。
「ラクヤクAI」ご活用シーン(例):
■ 治験関連文書やプロモーション資料の自動生成
■ 作成資料のクオリティチェックや、資料間の整合性チェック
■ 講演内容(資料・音声)の適用外表現モニタリング
■ 薬剤情報やナレッジの検索・調査
その他、個別カスタマイズが可能な生成AI環境で、
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