生成AIをいかにビジネスに活用するかは、現在様々な企業が試行錯誤している共通の課題であり、その成否が今後の事業の成長を左右するといっても過言ではありません。特に証券や銀行、保険といった金融業は生成AIとの親和性が高いとされ、活用することで業務効率が大幅に改善する可能性があります。
2025年2月18日(火)に開催された「東洋経済 四季報AIカンファレンス 2025」の特別セッションでは、金融業界のAI活用についての示唆に富んだディスカッションが行われました。登壇したのは三井住友カード株式会社マーケティング本部でデータ戦略ユニット長を努める白石寛樹さんと、金融庁イノベーション推進室室長の牛田遼介さん。二人は金融業界のAI活用とその未来についてどのようなことを語ったのでしょうか。

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金融機関における生成AI活用の現状は…
トークセッションの最初のテーマとなった「金融機関における生成AI活用の現状」について、白石さんは「金融機関は持っているデータの性質上、どうしても意思決定が重たくなり、スピード感を持って取り組むのが難しい現状があります」としつつも「一方で、社内の小難しいプロセスや業務、あるいは特定の人の暗黙知といった、生成AIだからこそ刈り取れる類の業務がたくさんあるのも金融業界の特徴ですから、その意味ではこれからの活用が楽しみです」と語っていました。

具体的な取り組みとしては「コールセンターでのお客様対応で、担当者のかたわらでメールの文案を作るということをAIが行なっています。最初はそのまま使える文案は30%ほどだったのですが、たくさんの人間がAIにFAQを投入して学習させた結果、半年がかりで80%くらいまで来ました」(白石さん)
今後の展開については「Custella(カステラ)という、弊社が持っているデータを個人情報が出ない統計データの形でマーケティングなどの分野に活かすサービスを行なっているのですが、この5年間で痛感しているのが、様々な業種を跨いでデータを活用することの難しさです。AIによってこの分野でもっと付加価値を出せるのではないかと期待しています」と自社のビジネスでの今後のAI活用の展望を語りました。
では、AIのみならず、新しい技術へのレギュレーションを担当する金融庁の考えはどのようなものなのでしょうか?
「各企業様の取り組みは期待感を持って見させていただいています」と牛田さん。「AIについては様々なリスクが取り沙汰されていて、もちろん我々としましても、次の金融危機が起こらないようにしたり、金融犯罪の防止といったところは重視していますが、企業様の取り組みについては、ご協力できることはなんでもやっていきたいと考えています。新しい技術ですから、“これをやったら金融庁に怒られるんじゃないか”というご心配は各企業様にあるのではないかと思いますが、そういう心理的な障壁は取り除いていきたい。リスクとイノベーションの両立と口で言うのは簡単で、やってみるとさじ加減の問題も出てくるのですが、我々も金融機関様の努力を見ながら、ルールやその執行のあり方を考えていきたいと思っています」(牛田さん)

ただ、AIという新しく出現し、日々進化している技術への対応は各国とも試行錯誤の過程というのが現実のようで、「海外の大手金融機関は日本の金融機関と比べると抱えているエンジニアの数をはじめ体力の違いはあれど、実際のユースケースは日本と変わりません。生成AIのアウトプットをそのまま顧客に提示するといったことは彼らも、“怖くてまだできていない”というのが現状のようです。EUにはAI ACTという規制があって、金融セクターの場合クレジットスコアリングや生命保険の引き受けなどはかなり高度なリスク管理が求められるのですが、アメリカを見るとまだ明確なルールはありません。国によってAIへのアプローチが違うなかで、日本はどうポジショニングするのかがこれからの課題です」とも語っていました。
生成AI時代における金融サービスの今後の方向性
日本のAI政策の立ち遅れが指摘されるなか、今後日本の金融サービスはどのような方向に進むのでしょうか?
白石さんは企業の中に眠っている膨大なデータに注目し、それを活用することに活路を見出すことができるという意見でした。
「日本企業の多くは過去のログやデータを生真面目に全て保管しています。その意味では日本には実はAIの活用においてアドバンテージがあるわけです。生成AIは暗黙知を形式知変えるものであり、それによって今までにない新しいサービスを作れる可能性があります。その可能性を信じ、やってみようという発想が今うちの社内に出てきたところで、それこそ牛田さんを始め官庁の方に相談しながらやっていきたいと思っています」(白石さん)
金融庁としてもAIのリスクはきちんと把握しながらも企業のチャレンジは後押しをしていきたいという考えが伺えました。
「金融庁としては、新しいものに対して先回りをしてルールを作るということだけはやってはいけないと思っています。ですから企業の方々も“金融庁が何も言っていないということは、ダメなんだろう”ではなく“金融庁が何も言っていないということは、やっていいんだ”というメンタリティに変わっていただきたい。我々もリスクをとってやっていきたいと思っています」(牛田さん)
また、牛田さんは金融業界におけるAIの今後について「“埋め込み型金融”と言われますが、これからは金融とそれ以外のサービスの一本化がさらに進んでいくはずです。ひと昔前は銀行に行かないとお金を送ることができなかったのが今はスマホ一台で送金ができるようになったのと同じように、AIによって金融取引はみなさんの生活にとってさらに身近になっていくと思います。政府が“資産運用立国”ということを言っていますが、金融によって国民の生活がより豊かになるように、我々もやっていきたいと考えています」と語っていました。
生成AIのビジネス活用はまだ始まったばかりであり、活用の方法も程度もまだ各企業が模索している状態ですが、AIによってこれまでにないサービスが生み出される可能性は大いにあります。
そのなかで、元々AIとは相性がいい金融業界ではどんな変化が起こるのか。金融業界の企業が新しい付加価値を創り出したり、あるいは利用者である私たちの暮らしが便利に、そして豊かになるようなサービスの登場に期待したくなるディスカッションでした。
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