生成AIはその登場以来、人間の生活やビジネスのありようを変え、そして今も変え続けています。特に証券や銀行、保険といった金融業は生成AIとの親和性が高いとされ、活用することで業務効率が大幅に改善する可能性があります。
2025年2月18日(火)に開催された「東洋経済 四季報AIカンファレンス 2025」では、「金融AI革命最前線 生成AIが切り拓く次世代金融サービスの展望」と題し、生成AI時代の金融サービスの未来像から、東洋経済新報社がAI自動翻訳のパイオニア企業として知られる株式会社メタリアル(以下、メタリアル)と共同開発した専門文書AI「四季報AI」の最新動向まで、AIの「今」と「未来」を、脳科学者の茂木健一郎さん、起業家・AIエンジニアの安野貴博さん、東洋経済新報社編集局次長の山田俊浩さん、メタリアルCTOの米倉豪志さんが語り合いました。

こちらのイベントは2025年4月6日(日)まで無料アーカイブ配信をしていますので、ぜひご覧ください!
AI時代の企業に求められるマインドチェンジ
AIの進化によって、これまで人間が担ってきた仕事の多くを、AIが人間より速く、正確にこなせる未来が見え始めている今、「企業はビジネスの中にAIと人間をどのように配置するか」という新たな課題が生まれています。
こうしたことが当たり前になると、当然人間の仕事も、企業のあり方も変わります。このセッションの最初のテーマ「企業はAIでどう変わるか?」でのディスカッションで、自身も起業家である安野さんは「AIが2分でできることを人間がやろうとすると桁違いに時間がかかります。AIが作ったものに対して最後に人間の承認が必要になるのはもちろんですが、どこでどのくらいの承認を人間に求めるかというデザインがこれからの企業は重要になっていくと思います」と語りました。
「業務プロセスを変えないと、せっかくのAIも使いこなすことができなくなってしまいます。もっと日本の企業は筋肉質になる必要があると思います」という山田さんの意見に対しては、「発想を根本的に変えるべき」と安野さん。
「これまでのデュー・デリジェンスではロングリスト(M&Aなどの際の候補先企業の一覧)とショートリスト(ロングリストの中から選定して絞ったもの)があったとしたら、ショートリストに対して行うものでしたが、AIをデュー・デリジェンスに使えるようになったら、ロングリストに対してもまずデュー・デリジェンスをやってしまえばいい。そのうえでどうするかという発想に変える必要があります。今やっているやり方って本当にAI時代に適切なのだろうかと自分に問いかけてみることが大切です」(安野さん)

茂木さんが、作家・黒木亮さんの『メイクバンカブル』(集英社)を例に出しつつ「アフリカのとある国にボーイングの航空機を500機導入する、といったような大きな取引をする時、どんなにAIが発達しても最後の最後の判断はメインバンクの人が現地に赴いて、その国の文化や経済状況を見てGOサインを出すかを判断します。これからは財務データなど数値で処理できるところはAIが担い、人間は現場に行って数字に表れないところを見て判断する、というところにリソースを注げるようになるんじゃないかと思います」と、AI時代における人間の役割について語ると、米倉さんが「AIで企業が変わると言いますが、AIの機能で変わるわけではないんです」とユニークなAI論を展開しました。
「東洋経済さんに四季報AIを提案した時に、すごく迷われていました。でも、最後に『よし、やってみよう』となった瞬間って、四季報AIによって何か問題が起こる可能性とか、様々な懸念を乗り越えた瞬間なんです。その瞬間に企業は変わったわけです。AIにはそうやって人間を次のステージに連れていく力があると僕は思っています」(米倉さん)
DeepSeekディープシークの登場で「スケーリングロー」の神話は崩れるか
2つめのテーマ「これからのAIはどうなるか?」についても、活発なディスカッションが行われました。ここで茂木さんが提起したのは「AIがどんなに進化しても、それだけでビジネスで儲けられるわけではない」という点です。
「AIがどんなに進化しても、それだけでお金が儲かるとは限りません。お金っていうのは人間の欲望の行く先。その人間の欲望への洞察がないとAIアラインメントはうまくいかない気がしています」(茂木さん)
米倉さんは「人間の欲望の向かう先」としてのお金に対して「本来は人間の創造性を普及させるためのツールだったはずが、いつのまにか目的に変わってしまっている」と指摘しつつ「もう元に戻してしまえばいい。話すことが好きなら話せばいいし、作ることが好きなら作ればいい。お金が目的になるから悩みが深くなるんです。AIもお金が絡むからおかしなことになる。DeepSeekが出てきた時に、ChatGPTほど開発にお金がかからないということで注目されましたが、それを困ったことだという人がいました。でも、それって全然困ったことではないですよね。本来AIって研究者たちがお金のためではなく、より人間を理解したいという純粋な探求心から研究してきたもの。そこに立ち返る必要があるのではないか」と語りました。
すると、話はAI開発にかかるお金の話に。安野さんは今後のAIの行く末について「コンピューティングやデータ、推論の量のサイズを大きくすればするほどAIが賢くなる、という神話に基づいてこれまでのAI開発は行われてきました。そこにはお金がかかるので、今のAI開発がある種の“課金ゲーム”になっているところはあります。この神話が正しいのであれば、今OpenAIがやっていることは正しいということになりますし、DeepSeekの出現でこの神話が否定されるのなら大変なことになる。どっちに転ぶのかが気になります」(安野さん)
米中の狭間で日本がとるべきAI戦略は…
現在のAI開発競争の中心はアメリカと中国です。両国の狭間で、日本がとるべきAI戦略はどのようなものになるのかも話題になりました。

「グローバル資本主義にのっとって開発競争が進むのなら、日本がとりうる道はもうないのではないか」とする米倉さんに対し、茂木さんは「米中の間に立ってファンデーションモデルを作るというゲームはもう難しい」とし「ニッチなジャンルを見つけて戦っていくしかない」と語りました。安野さんも「AIのキャッチアップは必要ですが、開発争いには加わらない方がいいと思います」という意見でした。

「AIの開発競争をするのではなく、AIを使いこなす方向、つまりAIの社会実装が世界でもっとも進んだ国という立ち位置を目指す方がいいと思っています。欧米のように移民が入ってきて人口が増えている社会だと、AIを社会実装しようとしても、雇用をどうするのかという議論になりがちですが、日本はそもそも人不足ですから、そこのブレーキがあまりないと考えられます。AIの社会実装が進みやすい環境ではあります」(安野さん)
AIの可能性や今後の展開、そしてシンギュラリティや汎用人工知能の話題も飛び出したディスカッションは、登壇した4人それぞれの発言が、新たな話題の呼び水となる活発な対話となりました。
次回は「金融AI革命最前線 生成AIが切り拓く次世代金融サービスの展望」の特別セッションの内容をお届けします。
四季報データをAI解析、投資判断を効率化する革新的ツール「四季報AI」

「四季報AI」は、東洋経済新報社の「会社四季報オンライン」をはじめとする記事・データを出典として、証券会社や株主はもちろん、投資家や市場調査担当者などを対象に、株式市場での企業分析をサポートする対話形式のツールです。
東洋経済新報社と提携し、「四季報AI」へのAPI接続提供を開始。四季報AIの膨大な企業情報と市場情報のAIによる分析結果を利用可能になりました。
「四季報AI」の特徴
- 「四季報AI」は、LLMを活用した高度なデータ解析により、株式投資、企業研究に関するユーザーの質問に対して多面的な回答を導き出します。
- 「四季報AI」は、「会社四季報オンライン」をはじめとする東洋経済のメディアに掲載されている情報を主な参照元にしています。参照元を明示することで、情報の信頼性が高まり、また、詳細な情報の検索がしやすくなります。
- 「四季報AI」では今後も、チューニングによる応答の改善やより良いモデルの検討を含め、ご利用状況に対応しながら精度の向上などを行ってまいります。