生成AIはその登場以来、人間の生活やビジネスのありようを変え、そして今も変え続けています。特に証券や銀行、保険といった金融業は生成AIとの親和性が高いとされ、活用することで業務効率が大幅に改善する可能性があります。
2025年2月18日(火)に開催された「東洋経済 四季報AIカンファレンス 2025」では、「金融AI革命最前線 生成AIが切り拓く次世代金融サービスの展望」と題し、生成AI時代の金融サービスの未来像から、東洋経済新報社がAI自動翻訳のパイオニア企業として知られる株式会社メタリアル(以下、メタリアル)と共同開発した専門文書AI「四季報AI」の最新動向まで、AIの「今」と「未来」を第一線で活躍する専門家が徹底解説しました。

こちらのイベントは現在2025年4月6日(日)まで無料アーカイブ配信をしてますので、ぜひご覧ください!
『会社四季報』×AIエージェントで生じる巨大な相乗効果
「四季報(正式名称は『会社四季報』)」とは、言わずと知れた、東洋経済新報社が発行する、日本の企業の特色や業績、財務内容、株価の値動きなどをまとめた季刊雑誌です。就職活動や転職活動、あるいは投資などで参考にしたことがある人も多いはず。90年近い歴史を持つこの四季報を生成AIと組み合わせることで、一体どのようなことが起こるのでしょうか。

登壇したメタリアルCTOの米倉豪志さんによると、現在の「四季報AI」は、メタリアルが開発したAIエージェントプラットフォーム「メタリアルAI LLM 2」を使用し、2023年にリリースしたVersion1に続くVersion2なのだそう。一般に公開されているAIエージェントを使った社会実装としては日本でも最初の部類だと言います。
AIエージェントによって、AIが「自律性を持って独自に思考し、それをもとに意思決定し、目標思考性を持ってデータを集めてタスクを実行、そして適応性を持って新しいデータや外部環境と相互作用してパフォーマンスを向上させることができるようになっています」と米倉さん。わかりやすく言うなら「これまで指示待ちだった部下が自走型に変わったようなイメージ」なのだとか。四季報AIでは約50のAIエージェントが相互にコミュニケーションをとりながら、ユーザーのニーズに対応する仕組みになっていると言います。
「四季報AI」が持つ自律性・目標思考性・適応性でこんなことが可能に
では、四季報AIはユーザーからの質問にどのようなプロセスで回答を出力しているのでしょうか。
ユーザーからの質問に対して、四季報AIではまず思考方法の違う3体のAIエージェントが分析戦略を策定し、自分たちの持っている知識で回答ができるかを検証します。
その上で足りない情報を四季報のデータベースから抽出して、その内容をエージェントが検証します(必要であれば、四季報にとどまらず、決算書などの外部データをオンラインから抽出することもあります)。そして、データが揃ったら、それを数十体の分析エージェントが細かく分析。最後に分析内容の検証を行い、出力が開始される、という流れになっています。AIが自分で分析戦略を作り、データを集めて分析を行うというAIエージェントの強みを存分に生かしていると言えます。
生成AI時代のビジネスは「Human In The Loop」がカギに 『それで仕事は終わるのか?』
四季報AIに限らず、AIエージェントの登場で、ビジネスシーンでのAI活用は一層広まるはずです。というのも、自律的にデータを集め、意思決定ができるのであれば、AIはこれまでのように「人間の補助」ではなく、ある程度AIのみで仕事を完結させることが期待できるようになるからです。米倉さんも「今後AIエージェントの導入を考える際は、『それで仕事は終わるのか?』という視点が必要」だとしています。
そして、AIに一つのタスクをある程度任せることができるようになったら、人間の仕事も変わります。四季報AIはじめAIエージェントを使用したサービスの登場は、AIを補助として使うのではなく、本格的にAIと連携して仕事を進める時代、「Human In The Loop」の時代がやってくることを予感させます。
これによってビジネスに生まれるのは「速度」だと米倉さん。米倉さんが実際にメタリアルのAIエージェントプラットフォームを使用し、営業進捗状況テェックを行う様子を見せると、AIが分析に必要なデータへのアクセス許可を依頼し、人間がそれを行うと自動的に分析を開始し、あっという間に終わらせる様子が明らかになりました。
人間からしたら、圧倒的に仕事が速く、主体性のある部下が一人増えたのと同じこと。AIエージェントによって生まれる速度を業務に組み込むことが、企業のAI活用の本質だと言えそうです。メタリアルでは現在、金融業界向けに企業デューデリジェンスの効率化を実現する新製品も開発中のようです。
四季報AIが金融業界の業務革新を推し進める
AIエージェントを駆使し、自律性、目的思考性、適応性を備えた四季報AIですが、金融業界はどのような恩恵が期待できるのでしょうか。

米倉さんに続いて登壇したメタリアルCSOの三好真さんによると、投資や融資、M&Aなど、活躍が期待できる場は多いとのこと。例えば投資の場面では、ある要素が企業の株価に織り込まれているかどうかの分析ができ、融資では資金を貸し付けるにあたってのポイントを分析することもできるのだそうです。また、M&Aをする際には候補企業の選定も精度高くできるのが四季報AIの特徴として挙げていました。
国内外の投資先選定のための分析とレポート作成、というと既存のAIでもできそうな印象を受けますが、四季報AIによって「トランプ米大統領の就任による世界経済への影響」といった不確実性の高い要素を織り込んだ分析や、「過去の経済危機に対してどのような対応がなされて、その結果どうなったのか」といった調査に時間のかかるテーマの分析などもスピーディにできるようになります。融資でも、膨大なデータを素早く分析することで、融資先企業の調査を圧倒的に効率化することもできます。
今後は、株価の予測や業績予測など「未来の予想」にも、AIは踏み込んでいくのかもしれません。
AIの登場でビジネスは大きく変わると言われて久しいですが、四季報AIはその変化を加速させうるものだといえます。では、生成AIの進化が企業経営に革新的な変化をもたらす今、企業が競争優位性を保つには何が必要なのでしょうか。
次回記事では、「金融AI革命最前線 生成AIが切り拓く次世代金融サービスの展望」のキーノートセッションから、ゲストスピーカーとして登場した脳科学者の茂木健一郎さんや合同会社機械経営代表の安野貴博さんが、AIを駆使した意思決定の高度化や業務革新のポイント、そして生成AI時代の企業変革のカギについて語っていた内容をご紹介します。
四季報データをAI解析、投資判断を効率化する革新的ツール「四季報AI」

「四季報AI」は、東洋経済新報社の「会社四季報オンライン」をはじめとする記事・データを出典として、証券会社や株主はもちろん、投資家や市場調査担当者などを対象に、株式市場での企業分析をサポートする対話形式のツールです。
東洋経済新報社と提携し、「四季報AI」へのAPI接続提供を開始。四季報AIの膨大な企業情報と市場情報のAIによる分析結果を利用可能になりました。
「四季報AI」の特徴
- 「四季報AI」は、LLMを活用した高度なデータ解析により、株式投資、企業研究に関するユーザーの質問に対して多面的な回答を導き出します。
- 「四季報AI」は、「会社四季報オンライン」をはじめとする東洋経済のメディアに掲載されている情報を主な参照元にしています。参照元を明示することで、情報の信頼性が高まり、また、詳細な情報の検索がしやすくなります。
- 「四季報AI」では今後も、チューニングによる応答の改善やより良いモデルの検討を含め、ご利用状況に対応しながら精度の向上などを行ってまいります。